木曜日, 3月 04, 2010
三浦綾子『母』を再読。
(同じ"マザー"つながりなのは偶然)
小林多喜二の母親をテーマにした小説、三浦綾子の「母」を再読し終えた。
三浦綾子の本は、高校時代の前半に物凄く精神的にもはいりこんだ。それだけ彼女の本では、他の小説にあるような意地汚さを突き放す力強さが描かれている。もちろんそれは、三浦さんがクリスチャンだという、根っことしての信仰を持っているからだろう。
半年前あたりに、当時話題になっていた、小林多喜二の「蟹工船」の文庫本を大学の購買で購入して読んだ。その時に読破するまでは、あの読みづらい特殊な文字の使い方でなかなかページが進まなかったが、5ページも読むと慣れてきて、蟹工船内の壮絶な状況にどんどんページを読み進めていけた。短編なのであっと言う間だった(「母」も読み終えたし、つぎに再読するつもり)。「党生活者」のほうがなんだか頭に残っている。
なんで今更読み返したのかというと、それがまたつまらない理由で、数日前の会社説明会の際に書かされたエントリーシートで、「最近読んだ本で最も印象的だったものはなにか」と質問があり、ここ数年、そこまで心を打つ小説を読んでないなあと困った挙句、「蟹工船」について大して書けないということで、それと絡んだ、高校時代に読んだ『母』を論題にしてしまった。(「綾」の漢字も思い出せなかった・・)
『母』も、蟹工船のようにちょっと読みづらい文体で、「母」であるセキが終始秋田弁で語りかけているものになっている。それでも素朴で貧しい少女時代からはじまり、結婚、子育てと彼女の一生と、途中で生まれる多喜二の一生に、どんどん引き込まれていく。
読み返すまで忘れていたが、『母』で印象的だったストーリーが、多喜二が愛したタミちゃんの話だった。多喜二の誠実すぎる性格と、様々な偶然が重なった結果、結局ふたりが結ばれなかった恋物語は現代では絶対に書けない清すぎる切なさだ。
そして、『母』最大のハイライトである、多喜二の虐殺死のシーンは直接的に表現されないが故に、母の目線からの絶望的(・・・といいきれないんだろうな・・)な感情に、押しつぶされそうになる。エピローグで、「母」が絶望から近藤牧師によって這い上がってきて、素朴な信仰を持つに至る話、そして「山路超えて」の讃美歌(日本人が作詞作曲したらしい)の話は、多喜二の虐殺で終わらせない彼女の心の光りを表すよう。
学もなく字も読めない彼女が一番にのぞむことは、ただただ家族で楽しくご飯が食べられて一緒に生きていくことだった、その素朴さが『母』全編からあらわれていた。壮絶だけど温かい物語だった。僕は三浦綾子によって生き方を考えていた、屈折してたけど伸びようとしていた、高校時代を思い出した。まさに今、自立をしようとしている時に、一番大切なものを見失っていたのかもしれないと思ってしまった。
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