木曜日, 3月 18, 2010

「白洋舎」開業者の壮絶な人生・・三浦綾子「夕あり朝あり」




「最近影響をうけたという本がない」→「でも蟹工船はよんだ」→「作者をテーマにした本を前に読んだな→「高校時代、三浦綾子を読みまくっていた(その後村上春樹)」→「母、蟹工船(再読)」

そして、今回就職活動中と言うこともあり、白洋舎の開業者である五十嵐健治氏の一生を描いた三浦綾子の「夕あり朝あり」の文庫を、ケースから引っ張り出して読み出した。

夕あり朝あり (新潮文庫)
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新潮社 1990-11
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「母」同様、この小説も、テーマとなる人物自身が一人語りをするという形状を取っているが、読んでいく中野違和感は(ときどき時系列が飛ぶこと以外)感じることもなく、ぐっと引き込まれるように読むことができる。

色々な奉公先を転々として、戦争やタコ部屋も経験する少年期が壮絶。江戸から明治へと時代が移ったなかで、今では考えられないような生活を、確かに苦労体験ではあるけれども「あの頃は青かった」と本人が語る形状のうえに、苦労話にありがちな臭さもなく、読んでいる自分の生活の甘さも並行して考える事もできた。

仕事をすることで一番大切なこととは、と、就職活動のなかでどの企業も大方「お客様に信頼される」ことと「利益」をいう。けれどもその土台となる考えがあやふやな所は、そういった思念を従業員に浸透することなく、それぞれが歪んでいき、やがて全体が崩れてしまう。五十嵐さんは、自身がクリスチャンへとなったことで、仕事も、かつて裕福になって親に孝行するという名義もあった金銭主義的な考え方から、自己を第一にしない生き方をするようになったために、会社も、本当は伝道のためというのが根本にあるのだという考え方は、なかなか普通の民間企業にはないものだろう。根本があるからこそ、名義にあるようなお客様へのサービスや社会貢献が実際にやることができるんじゃないだろうか。

五十嵐氏自身は父親としてはあまり優れていなくて、子供も叱るときは殴り通し、金銭的にも貯蓄より浪費を優先してしまう節があるそう。三浦作品の善人は、あくまで「善人」で、悪いところが出てこないというのが、彼女の作品の欠点といえば欠点であるといえる。けれどもこの作品は、自身を美化することはないため、そういう欠点がみられない。白洋舎にライバルがでたり、内部で分裂行動が起きてしまうという、不安定な部分もあるからこそ、リアルだった。

仕事を好きな職種として探すことが出きない(音楽は好きだけど仕事としてどうなのか)ので、働く上での根本的な考え方ってなんだろうと思っていた中で、この本に出会えて良かった。仕事や業務内容が問題じゃない。自己実現というものに囚われ過ぎると、生きている意味そのものが揺らぐんじゃないか。今ある状況、目の前にある状況を受け入れる自身の心の持ちようを、今こそ大切にしたいなあと思う。

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