水曜日, 4月 20, 2016

ジスモンチを観た。

 ジスモンチを観た。

 本当はナナ・ヴァスコンセロスとの共演だったはずが、先月唐突にヴァスコンセロスは天に召されてしまった。本公演も、急遽、ヴァスコンセロスの追悼の意を込めたものとなったという。

 ジスモンチはやはり、Soloが好きで、度々レコードから録音をした音源を聴き返していた。土着的ともいえるブラジルの躍動感、クラシカルで静寂なピアノ、魔術のようなギターの調べ。その独特の音世界は唯一無二の存在だと思う。残念ながら、彼の作品は再販されている作品も比較的高価なため、彼の豊かなディスコグラフィを中々追えていない。

 仕事を定時であげ、練馬へ向かう。会場は練馬文化センター。座席は二階の、ほぼ最後列に近い場所だった。

 ジスモンチが現れる。万雷の拍手。深々とお辞儀をした後に彼は小さな音の、民族楽器を奏でる。観衆は耳を澄ます。鼻をすする音も響くような静けさ。続いてジスモンチはフルートのような笛を用いた演奏。そしてギター。CDで感じた不可思議な音が、あんなに小さなギターから響いてくる。不思議な音の波。仕事の疲れからか、度々瞼が落ちてしまった。ヴァスコンセロスとの共演作であり代表作のひとつである「Dança das Cabeças」の調べも幾つか奏でたように思った。演奏の狭間に英語で色々と解説をする。そうして時は流れ、第一部が終わる。

 休憩を挟み、第二部。ジスモンチはピアノの前の、低い椅子に腰をかけ、小さなタオルをピアノに置き、音を奏で始める。海波のように、時に静かに、時に激しく、音楽が広がる。それでいて、メロディは不意に耳を掴むような、親しげなものであったりする。唐突に、数曲目の演奏で、涙が流れ、焦る。


 ポップスやロックバンドのライブにあるような、エモーションやビートのない、クラシックのコンサートのようなジスモンチのステージは、十代の頃だったらあまり楽しめなかっただろう。色々と音楽と出会い、色々な世界を知って、それを楽しめるようになる事は、幸せな事だなと思った。ジスモンチも、恐らくこれが最初で最後のライブ体験であるだろうが、その伝説的なミュージシャンを、仕事帰りにそのまま東京で見る事ができるなんて、何て事だろう。ジスモンチは演奏を終え、またも謙虚に深々とお辞儀をしたが、こちらこそ彼に感謝を伝えたくて仕方がない。

 一度ステージを去り、鳴り止まぬ拍手の中で再びステージに戻る。そのアンコール曲でスクリーンが降りてくる。曲の最中、普段着でにこやかに演奏をするヴァスコンセロスの生前の映像が流れる。ジスモンチはそれは自然に、静かに彼の演奏にピアノを合わせていく。最後の最後に、見られるはずだった二人のマジカルなステージが現れたのだ。演奏を終えたジスモンチに、観衆は立ち上がる。会場の明かりがついてもなお、拍手は鳴り止まなかった。

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